2023年3月に実写映画化し、話題となった零落。
とにかくダークな展開が続くので、賛否が分かれる作品ですが、浅野さんと同世代の40代の方は間違いなく面白く読めると思います。
私はこの作品に20代前半に出会い、正直初見は「暗いし浅野さんの印象が変わった」と感じました。
しかし、1年後にふとインタビュー記事を読んでから読み返すと、途端に味わい深い作品に変化しました!
今ではとても大好きな作品の1つです。
そんなちょっぴり大人向けな零落の魅力を、浅野いにおファンの私が解説させていただきます!
零落の基本情報とあらすじ
まずは零落の基本情報とあらすじから!
零落は浅野いにおさんの半自伝的作品になります。
浅野さんの経験がほとんどそのまま描かれており、とにかくリアリティを重視した作品です。
では、なぜ「自伝」ではなく「半自伝」と言われているのでしょうか?
その理由は後ほど詳しく解説させていただきます!
零落の基本情報
コミック原作者 | 浅野いにお |
---|---|
出版社 | ビッグコミックスペリオール |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
あらすじ
漫画家の深澤薫は、長期連載の作品を終え、次作に行き詰まっていました。
形だけの祝福や発行部数の減少に心はすり減り、いつからか自分がなぜ漫画家を選んだのかも分からなくなってしまいました。
虚無感に苛まれる日々の中で、大切な存在であればあるほど信じられなくなっていきます。
そうして深澤は風俗嬢にハマり、束の間の繋がりに縋るようになっていきます。
そんな深澤の魂はどこへ着地するのでしょうか?
浅野いにおさんの葛藤を忠実に描いた半自伝的作品。
零落の人気の理由と見どころ5つ!
零落の魅力といえばその「リアリティ」さにありますよね。
半自伝的作品ということだけあり、とにかく人間らしさが生々しく描かれています。
ライバルや新人作家に対しての嫉妬、自己顕示欲など自分にも覚えのある感情にドキドキします。
また、零落は新装版ソラニンと同時に発行され、そのことでさらに強いメッセージ性のある作品になりました。
色んな意味で浅野さんの見え方が変わってくる作品になっています。
その魅力と人気の理由を詳しく解説させていただきます!
①浅野いにおと同世代の読者へ向けて描かれた作品
「ソラニンの浅野いにお」のイメージを払拭する
浅野いにおという漫画家に対してどんなイメージを持っていますか?
一般的なパブリックイメージとしては、やはり「ソラニンの浅野いにお」と紹介されていることが多いように感じます。
爽やかで前向きな”勇気をもらえる作品”。
20代前半を駆け抜ける若者に響きやすい作品ですよね。
しかし、
零落ではそのイメージがぶち壊されます!
零落には爽やかさも前向きさもありません。
中年男性の虚無感や嫉妬など暗い感情がリアルに描かれていて、中々20代には受けそうに無い作品です。
「本当に同じ人がソラニンを書いたの?」と驚かされます。
また、同時期に連載していたデデデデもまた零落とは真逆で、エンタメが重視されており、20代前半に好まれそうな作風です。
「時代や読者を意識して描いた」んだとか。
では、なぜデデデデを連載中に、真逆の作風であり読者層も違う「零落」を描かれたのでしょうか?
自身の年齢と読者層のギャップに悩んでいた
浅野さんの作品は、読者層が20代ということもあり、主人公が学生や若者である作品がほとんどです。
しかし、
浅野さん自身が30代中盤という年齢になり、
少しずつ若者を描くことが難しく感じてきたそうです。
さらに、ソラニンを連載当初から読んでいた読者も少しずつ離れていくのを感じ、20代の気移りの激しい読者層が残り、自分の作品とのギャップを感じていたそうです。
浅野さん自身も「自分はデデデデを描くような漫画家だったかな?」と疑問を感じ、バランスを取るためにデデデデの途中で零落を描いたそうです。
年齢を重ねると、趣味嗜好はどうしても変化していきますよね。
自分自身、数年前ですら手に取る作品は違うように感じます。
私達読者同様、漫画家である浅野さんも描く作品が変化しているのは、当たり前のことではありますが、面白いですよね。
ソラニンは”勇気をもらえる作品”ではない?
また、ソラニンで”誤読”する方が多くいたことも零落の背景にあるようです。
先ほどソラニンを”勇気をもらえる作品”と書きましたが、浅野さんはそのような”いい話”にしたつもりはなく、伝わりきらないことにもやもやされたそうです。
浅野さんがソラニンを通して伝えたかったメッセージは
”ただ1人の人間が死んだ事実があるだけで、日常は過ぎていく”
という、熱いライブシーンとは裏腹に意外とさっぱりしたもの。
「感動しました」「勇気づけられました」という感想をたくさんもらったそうですが、「何に勇気づけられたのかわからない」と感じることも。
お涙頂戴のテンプレ的な展開にしたからこそ、別の切り口でラストを描いたつもりだったはずが、それが上手く伝わりきらなかったことが浅野さんや零落の深澤の”虚無感”に繋がっています。
これまで20代を意識した作風でしたが、零落では浅野さんと同世代の30~40代を意識するようになったことで、かなり作風が変わっています。
自分自身を投影した衝撃作である零落は、同世代の読者へダイレクトに響くものとなり、実写映画化されるほどにもなりました。
確かにギャップが激しい作品ですが、ソラニンを描いた人が零落を描いているというギャップにやられる読者も多いのではないでしょうか?
かくいう私もその1人です。
同じ人間でも、経験や時代でここまで描くものが違うのかと興味深いです!
20代の頃に読んだ印象と30代、40代と年を重ねてから読んだ印象を比較して楽しめるのも零落の魅力です!
②ソラニンファンこそ見てほしい作品!
零落とソラニンは、「本当に同じ作者なの!?」と驚いてしまうほど真逆の作風です。
しかし、私はソラニンファンにこそ零落を進めたい理由があります!
それは、
ソラニンの種田と零落の深澤は対比になっているからです。
この2人は音楽と漫画というフィールドは違いますが、創作という括りでは同じような職業を目指していました。
しかし、10年が経過して種田は亡くなり、深澤は漫画家としての道を迷っています。
そんな風に2つの作品を読むことで、主人公を対比することができて、それが相乗効果を生み、それぞれの作品への理解度や面白みがぐんと増します!
零落と新装版ソラニンはなぜ同時発行だったのか?
先程の主人公の対比の話から、察しの良い方はなぜ零落と新装版ソラニンが同時発行だったのか想像がついているかと思います。
この2つの対比を生み出すことが、同時発行の1つの理由になっています。
ただ、もう1つ別の理由もあります。
それは、
ソラニンの誤読を補填し、同時発行することで
”何か意味がある”と思わせるためです。
新装版ソラニンには「第29話」として、およそ10年の月日を重ねた、芽衣子達の後日談が収録されています。
浅野さんは昔の自分だったら後日談を書くことは、蛇足で野暮だと思っていたので有り得なかったそうです。
しかし、浅野さんも考え方が変化してきたことで、大判で新装版を出すにあたってストーリーの補填として第29話を収録することを決めたそうです。
私も後日談は蛇足という考え方だったのですが、ソラニンの後日談は気持ち良く読めました!
読んでよかったと思うし、第29話はおまけではなくてもう作品の一部である最終回だなとまで感じました。
零落では誤読について言及されており、それが深澤を追い詰める展開になっていきます。
そうした展開を踏まえると、同時発行されたことには何か意味があり、メッセージが込められているのかなと感じます。
③リアルさが追求された半自伝的作品
零落は浅野さんの姿をそのまま描いた半自伝的作品です。
しかし、深澤は自分勝手な行動が見られたり、愚痴っぽかったり、風俗にハマったりと…印象の良く無い行動が目立ちます。
正直見ていて気持ちのいい作品とは言えません…。
しかし、なぜかグイグイ引き込まれていってしまいます!
その理由はやはり、浅野さんの気持ちや感情がそのまま投影されているからだと思います。
言葉の説得力が違いますし、少なからず自分を見ているような感覚もあって、ページを捲る手が止まりませんでした。
だからこそ、「深澤にハッピーエンドを…」と願わずにはいられなかったのかもしれません。
なぜこんなにリアルさを追求したのか?
浅野さんは零落を描くにあたって、とにかくリアリティを重視されたそうです。
一体それはなぜなのでしょうか?
その理由は、
デデデデが嘘だらけの作品だったので、
もう嘘は描きたく無いと感じたから。
そうはいっても、自分自身の経験を作品にすることは心が擦り減る作業ですよね。
並大抵の精神力ではできないことです。
深澤が”化物”だと言われるのにはこういう理由もあるのでしょうか?
夫婦喧嘩を描いたから零落は作品として成立した
作中では夫婦喧嘩のエピソードも描かれているのですが、1番近い存在だからこそ1番つらくあたりあたらている姿に悲しくなります。
しかし、この”夫婦喧嘩”を描いたからこそ、零落は作品として成立しています。
夫婦仲の崩壊を描くことで、いかに深澤が自分のことしか見えていないかが浮き彫りになっていきます。
奥さんを「町田」といつまでも苗字で呼び続ける点も深澤の異常性が感じられます。
私は風俗にハマった深澤が奥さんに性行為を無理矢理強いたシーンこそ、この作品の真髄と考えています。
場面ごとに変化していく夫婦の会話にも注目しながら見ていただきたいです!
どうして”半”自伝なのか
ここまで浅野さんがリアリティを追求して零落を描かれたことをお伝えしてきました。
では、どうしてそこまでリアリティを追求したにも関わらず、零落は”半”自伝的作品なのでしょうか?
それは、結末だけは浅野さんの選択と異なるからです。
浅野さんと深澤はそれぞれどのような選択をしたのでしょうか?
ぜひ、作品で確認してください!
④風俗嬢は深澤の求める欲求の象徴
零落では3人の風俗嬢が登場します。
皆さんご存知、作品のビジュアルとしてよく登場するちふゆ。
浅野いにおの零落の中に出てくる
ちふゆちゃんがタイプ過ぎて
次はこの髪型にしようと思う。
と言いつついつもこんな感じに
なってる気がするが… pic.twitter.com/khdAixnwe2— N€co. (@25Tomu19) June 13, 2022
実はちふゆは2番目に出会う風俗嬢で、1番目はゆんぼという女の子です。
ゆんぼはふくよかで包容力のある、人間以外の動物で例えるなら牛のような巨乳の女の子です。
とにかく連載が終わって疲れていた深澤は、ゆんぼのような全てを包み込んでくれるようなな存在を必要としていたのだと考えます。
2番目のちふゆは、猫顔で綺麗な女の子。
深澤は学生時代の元カノにかけられた言葉を呪いのように引きずっており、その元カノが猫顔であったことから猫顔の女性にトラウマがあります。
その点から、ちふゆと関わっている期間は”漫画と自分のことしか見ていない自分を責めてくれる相手が欲しかった”のではないかと考えます。
犬のように自分に飼いならされない、媚びない相手に何かを求めていたのではないでしょうか。
このように、風俗嬢はその時々の深澤の欲求を満たしてくれる相手だと考えられます。
では、クライマックス後に深澤が選んだ3番目の風俗嬢は一体どういう女の子だったのでしょうか?
深澤の心境の変化と風俗嬢を照らし合わせて、別の角度から作品を楽しんでみてくださいね♪
⑤必見のクライマックス・サイン会シーン!
零落ではクライマックス付近に、深澤がサイン会を行うシーンがあります。
このシーンを描くために、実際にサイン会が行われました!
そこで、物語の中でちょくちょく登場するファンの女の子と対面します。
この女の子も実在しており、サイン会にも来てくれたそう。
そこまでしてリアリティを追求する浅野さんには感服です!
プロ根性がすごすぎますし、ちょっと恐ろしいなあとも思います。
気合いを入れて描かれたサイン会シーン、ラストの深澤の衝撃のセリフに驚くこと間違いなしです!
臨場感をお楽しみください♪
零落をオススメできる人できない人
ここまで零落の人気の理由や見どころなどについてお伝えしてきました。
零落は正直好き嫌いが分かれる作品です。
そこで、オススメできる人とできない人を簡単にまとめてみました!
オススメできる人
- 30〜40代の方
- 浅野いにおファン
- 暗めの作品が好きな人
オススメできない人
- 浅野いにお作品を読んだことがない
- ハッピーエンドしか認められない人
- 明るい雰囲気の作品が好きな人
- 少年漫画が好きな人
零落は浅野さんのファン向けの作品のように思います。
もちろん、浅野さんの作品を読んだことがない人も楽しめますが、ソラニンやおやすみプンプン、デデデデあたりは読んでからの方が楽しめます。
また、夢や勇気をテーマにした少年漫画のような雰囲気は一切なく、暗めのテイストの作品ですので、合わない方は難しいかもしれません。
30〜40代の層を意識して描かれた作品なので、20代の方はよく分からないと感じるかも。
しかし、何度か読み返したり年を重ねてから読み返すと、きっと面白く読めると思います。
まとめ
いかがでしょうか?
零落の人気の理由や見どころについてまとめてみました!
零落は好き嫌いの分かれる作品ですが、「この作品が1番好き」というファンもいるのも事実です。
浅野いにおファンは必見の作品ですよ♪
最後までお読みいただき
ありがとうございました!